環境変化を見据え、“未来へ進むための旗印”を掲げる
三菱商事マシナリ株式会社は、1982年に三菱商事の全額出資により設立された、交通、電力・プラント、宇宙・航空・防衛など、社会を支えるインフラ領域に特化した専門商社です。その事業の特徴は、単なる機器の輸出入や販売にとどまりません。案件の形成段階から契約交渉、調達、物流、建設・納入、さらにはアフターサービスに至るまで、長期間にわたる複雑なプロジェクト全体に深く関与します。国内外の多様な関係者と連携し、責任を持って最後までやり切る「案件履行力」こそが、同社最大の強みです。
しかし、激動する昨今の事業環境の中で、同社は強い危機感を感じていました。既存事業の延長線上で、従来の仲介型ビジネスを継続するだけでは、中長期的な成長を描くことが難しくなっていたのです。サステナブルな企業として存続するには、自社の立ち位置を根本から見つめ直し、社会や顧客が抱く未来のニーズを先取りした、新たな付加価値を生み出す必要があります。
その変革の鍵を握るのが、社員一人ひとりの意識改革でした。これまでの着実な実行力に加えて、新たなサービスを創出するには、社員が自ら考え、意見を躊躇なく言い合える組織風土が不可欠です。そこで同社は、2030年を見据えた中長期的なテーマとして「自立化」を掲げます。事業と個人の両面において自立を促し、組織全体の意識を統一するための羅針盤が強く求められたのです。
このような背景から、同社は2024年10月、社員が“未来へ進むための旗印”として「実行力と想像力で、インフラの未来を創る」というパーパスを策定します。この策定には、次世代の経営層になる中堅社員で構成された「経営塾」のメンバーが深く関わり、彼らの熱い想いと徹底したこだわりが反映されました。
三菱商事マシナリの久保田浩美氏は、当時の想いを次のように語ります。「自立化は事業や業務だけでなく、社員の行動においても求められていると考えました。その実現には社員の意識の統一が重要になるので、社員が未来に進むための旗印としてパーパスを策定したのです」(久保田氏)。

執行役員
未来創造部長
久保田浩美氏
パーパスの策定後、同社はその理念を全社に浸透させるためのパートナーとして、採用サイト制作などで縁のあった揚羽を選定しました。揚羽が他社向けに制作した映像の表現力に共感したことに加え、初期の打ち合わせ段階から同社の意図を深く理解し、単なる制作物ではなく、「社員にどう届けるか」という視点で伴走する姿勢が、協業の大きな決め手となったといいます。
「紙飛行機」に想いを乗せて、共感を生む映像表現に
パーパスを社内に浸透させる第一歩として、同社がまず注力したのが映像制作です。ここで最もこだわったのは、難解な経営用語を羅列するのではなく、社員が前向きに受け止め、自分自身の日常業務と結びつけて考えられるような表現へと昇華させることでした。パーパスを大上段に構えて、社員にプレッシャーを与えるのではなく、一人ひとりの身近なところから想像を膨らませるアプローチが求められたのです。
同社には、既存事業で培ってきた確固たる「実行力」が備わっています。その一方で、これからさらに伸ばしていくべき力が「想像力」でした。この2つの力を掛け合わせることこそが、インフラの未来を創るための新たな武器になるはずです。このメッセージを、いかにして視覚的かつ直感的に伝えるかが、映像制作における最大のテーマとなりました。
そこで採用されたのが、インフラという言葉が持つ重厚で硬い印象とは対照的な、柔らかく親しみやすいアニメーション表現です。社員に身近なところからイメージしてもらい、行動につながることを意識したと、三菱商事マシナリの中山拓人氏は説明します。「パーパスを壮大で遠いものにするのではなく、日々の業務に紐づけて捉えてもらう設計を重視しました。そうした想いを直感的に伝えるため、ナレーションの言い回しや映像表現の細部まで徹底的にこだわったのです」(中山氏)。

経営企画部 部長代行 兼
未来創造部
中山拓人氏
映像のキービジュアルとして揚羽が提案したのが、「紙飛行機」のモチーフでした。紙飛行機は、誰もが子どもの頃に一度は作った経験がある身近な存在です。大きな未来をいきなり想像するのではなく、一人ひとりが持っている小さな想像力を出発点にしたかったと、揚羽の松尾果歩は振り返ります。「企業として、実際に携わってきた航空や宇宙などの事業と『想像力』を掛け合わせたとき、子どもの頃に身の回りにあった紙飛行機が象徴になるのではないかと考えました。紙飛行機をモチーフにすることで、社員の皆さんが持つ想像力を育むきっかけにしたかったのです」(松尾)。

制作第1部 映像2グループ
映像ディレクター
松尾果歩
この映像制作は、未来創造部のメンバーが中心となって携わり、完成後、社内で大きな感動を呼びます。「最初に映像を見た時、『よいものができた』と心を動かされました。イメージがしっかり頭の中に入って来たので、パーパスの浸透という面でも、とても役に立ったと思います」と久保田氏は明かします。
一貫したクリエイティブで日常にパーパスを溶け込ませる
映像で描き出した温かみのある世界観は、多様なコミュニケーションツールへと展開されていきました。その代表例が、映像のキービジュアルである紙飛行機を中心としたイラストを用いた社内用ポスターと、社外へ向けた宣言となるパーパスサイトの制作です。視覚的な世界観を統一することで、メッセージの浸透力を高める狙いがありました。
特にポスターの展開においては、社員に対するサプライズ演出が功を奏します。新年度を迎える4月1日の朝、社員が出社すると、社内の会議室や執務室の目立つ場所に、一斉にポスターが掲示されていたのです。合計60枚にもおよぶこの視覚的なインパクトは大きく、社員の間に新鮮な驚きと、パーパスに関する自発的な会話を生み出すきっかけになったといいます。

加えて、パーパスサイトを通じた社外への発信も同時に行われました。社外に向けて自社の存在意義や目指すべき方向性を明確に宣言することで、社会的な約束としての重みを持たせるとともに、社員自身の誇りや自覚を促すインナーブランディングの相乗効果を狙ったものです。

三菱商事マシナリのパーパスサイト:https://www.mcmachinery.co.jp/purpose
映像からポスター、そしてWebサイトに至るまで、一貫したクリエイティブを展開したことに大きな意味がありました。揚羽の玉手涼介は、初期の打ち合わせから同社の熱量に触発されたと話します。「三菱商事マシナリの皆さんから、様々な想いをお聞きできたことで、パーパスの言葉を単純に広める単発の制作ではないと感じていました。パーパスに共感し、必要な想像力を身に付けるにはどうすべきか。その目的が共有できていたからこそ、親しみやすい世界観で全体を構成するというイメージを自然に持てたのです」(玉手)。

ブランドマーケティング部 ブランドマーケティング5グループ
サブマネージャー
玉手涼介
こうした多角的なツール展開の根底には、パーパスを一時的な話題で終わらせないための明確な狙いがありました。中山氏は、この一連のコミュニケーション手法の意図について次のように述べます。「映像、ポスター、Webサイトとすべてに一貫した表現を使うことで、日常的にパーパスに触れる機会をつくりたかったのです。そのうえで、社内外に同じメッセージを継続して伝えるよう意識しながら、取り組みを進めました」(中山氏)。
全社横断タスクフォースが牽引した「行動指針」への展開
パーパスを策定した企業が次に直面しがちなのが、その理念をいかにして現場の具体的な行動に落とし込むかという“壁”です。一般的には、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)という体系へ展開することも少なくありませんが、揚羽は同社の事業特性を考慮し、より解像度の高い「行動指針」と「行動事例集」の策定へと舵を切る提案をしました。
パーパスは企業と社会の結びつきを示す優れた概念ですが、ややもすると抽象的で綺麗事に聞こえ、社員個人の日々の業務と乖離してしまうリスクを孕んでいます。揚羽の持永浩史は、そのリスクを回避するための戦略的なアプローチについて、次のように指摘しました。「落とし穴にはまり込まないためにも、日々の業務に落とし込んだ行動指針と行動事例集を目指したのです。そのために、各部門から選出された12人の全社横断タスクフォース『ACTION12』とともに、パーパス策定時の資料や社内アンケート、ヒアリングなどを踏まえながら、パーパスにある実行力と想像力の2つの軸で、重視すべき行動や価値観を議論しました」(持永)。

ブランドコンサルティング部 ブランドコンサルティンググループ
シニアコンサルタント
持永浩史
この「ACTION12」というプロジェクトチームの組成は、パーパスの自分ごと化において重要な役割を果たします。経営層がトップダウンで言葉を押し付けるのではなく、現場の最前線で働く社員が自ら集い、議論を交わしながら言葉を紡ぎ出すプロセスそのものに、何よりも大きな価値があったからです。
経営層だけでなく、現場の社員がともに議論を重ねたプロセスの意義を、揚羽の石井真由は強調します。「単なる理想論ではない、実践の場で真に機能する共感性の高い言葉が、生み出されたのではないでしょうか。抽象的な概念を、様々な立場の方々が納得できる表現へと昇華させる作業は困難を伴いましたが、その結果、望ましい行動と避けたい行動を明確にした実践的な事例集が完成しました」(石井)。

ブランドコンサルティング部 営業グループ
石井真由
さらに事務局は、ACTION12のメンバーが真剣に議論を交わす様子をメイキング映像として収録し、全社に公開します。現場の仲間たちが業務の合間を縫って真摯に向き合い、時には葛藤しながら作り上げた指針であることを可視化。社員全員の深い共感と納得感を醸成し、行動指針を自分ごととして捉える確かなきっかけをつくりました。

実践と共有のサイクルで、組織風土の変革を加速させる
行動指針と事例集が完成した同社は、パーパスの浸透フェーズを「認知・理解」から「共感・行動」へと進めるための施策に乗り出しました。その要となったのが、現場の社員と最も近い距離で接するミドルマネジメント層、すなわち管理職向けのワークショップの実施です。管理職の深い理解と実践こそが、組織全体の変革を牽引するポイントとなります。
ワークショップでは、管理職自身が行動指針を自らの日常業務に紐づけて深く考え、具体的なアクションへと落とし込む作業が行われました。他部門のリーダーたちが実践している事例を共有することで視野が広がり、自組織での具体的な展開イメージを明確に描くことができるようになったと、参加者からも高い評価を得られています。
また、各リーダーが特に重要だと考える行動指針を「マイアクション宣言」として言語化し、パーパスに特化した社内報『パーパス通信』に掲載しました。上司が自らの言葉でパーパスの体現を宣言する姿は、現場の社員にとっても大きな刺激となり、組織全体に前向きな活力を与える効果を上げるでしょう。
現場での実践を一層後押ししたのが、行動指針を印字した「卓上カレンダー」の配布です。これにより、社員は日々のスケジュールを確認するたびに行動指針を目にすることになります。日常の風景に自然な形でパーパスを溶け込ませたこの施策は、社内で想定を上回る好評を博しました。
「なかでも卓上カレンダーは評判がよく、パーパスや行動指針を仕事の中で、自然に意識できるツールとして力を発揮していると感じています。今後さらに、社員同士の会話の中でこれらの言葉が飛び交い、一人ひとりが自分の意見を積極的に表明できる組織風土を根付かせたいですね」と、一連の取り組みがもたらした組織風土の変化について、久保田氏は自信をのぞかせます。

日常への実装を深め、社員が自走する組織へと変革
映像制作からポスター展開、行動指針の策定、そしてワークショップに至るまで、多角的なアプローチを通じてパーパスの浸透を図ってきた三菱商事マシナリ。揚羽の支援に対する評価は、質の高いクリエイティブを納品したことにとどまらず、その伴走姿勢に集約されています。
同社が最も評価したのは、「社員がパーパスを自分ごととして捉え、いかに行動に移すか」という本質的な目的を見失わず、一貫したストーリーをもって伴走した揚羽の姿勢でした。社内プロジェクトだと陥りやすい近視眼的な視点を補い、豊富なインナーブランディングの知見に基づいた客観的なアドバイスが、長期にわたるプロジェクトを成功へと導く大きな推進力となったのです。
パーパスの浸透は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。同社は今後、新たな大規模施策を矢継ぎ早に講じるよりも、これまでに構築したツールや仕組みを最大限に活用し、社員同士の対話や事例共有を通じて、パーパスを日常の仕組みの中に深く根付かせることに注力していく方針です。
既に同社内では、既存のサンクス制度と行動指針を連携させ、パーパスを体現した社員を称え合う仕組みが稼働しています。さらに、若手社員が自発的にパーパス推進のアイデアを提案し、実行に移すなど、経営層のトップダウンではない、自走する組織としての確かな芽が育ち始めています。
培ってきた強固な「実行力」に、未来を切り拓く「想像力」を掛け合わせた三菱商事マシナリにおいて、社員一人ひとりが疑問を持ち、将来を想像し、挑戦を続ける。その挑戦を周囲が支え、新しい価値に変えていく。インフラの未来を創るというパーパスを胸に、組織全体で自立化へ向かう同社の進化は、これからも力強く続いていくはずです。




